語用論まとめ

「語用論への招待」を読んだ個人的まとめ。色々間違っているかもしれません。例は自分で考えてみた。


1章
A:概略
言葉の意味とは何か?という問いに対して3つの意味を提案する。


[1]解釈的意味:語用論の対象にしない、文そのものの意味。「お金が足りない。」→お金が不足している
[2]明意:言語形式を加味した意味。「お金が足りない。」→(今、多重債務によって、私は、私の)お金が、不足している
[3]暗意:推論のみによって得られる意味。「お金が足りない。」→「金を貸せ」


○解釈的意味と明意の差は「真偽の判断が出来るかどうか」になる。ここで判断する人は当然聞き手である。
 お金が足りない、ということはいくつかの意味を補完しなければ真偽の判断が出来ない。
 [2]で追加した「私は」という主格は特に重要で、「お金が足りない」だけでは果たして「全世界の人」が足りないのか、「自分の組織」が足りないのかといった情報が無いので真偽判断が下せ ない。「多重債務によって」というのは金融会社の前で話していたとか、そういうコンテクストから読み取った意味になる。こうした情報があって初めて真偽判断が可能となる。
○暗意は言語形式を使わない推論によって得られる意味。「自分に金が足りない、って言ってくるということは貸せってことだな。」という推論で得る。
 言語形式を使わないって何ぞや?と思うが、これは代名詞の解読や動詞の格理解(補完)といった文解釈といったことを行わない推論のことらしい。
 もちろん、明意でわかった意味を下地にしているから「使わない」、というよりはより高次の過程と理解したほうが良いのだろう。
○明意と暗意のどっちが重要か?というのは実際の対話場面では暗意が重要になることが多いかもしれない。ここでは、「金を貸せ」という情報が特に重要。
 それに対して新聞の文書などは明意が重要になることが多いだろう。


B:語用論の狙い
「発話が解釈される過程と、その過程を支配している原理を明らかにする」
これを明らかにすることによって、どういう場面でどう発話するか、ということが理解できると考える。
ある場面ではどういう発話が適切か?という問題を研究する方向性は複雑で難しい。その点、語用論は発話という出発点、つまりデータがあるので研究が出来るとのこと。


C:1章までの感想:
意味の3区分は問題を切り分けるという点で非常に役に立ちそうだ。昔ながらの直列的な見方をすると「解釈」→「明意」→「暗意」の順に解釈が進められるのだろうか。
ところで、明意と暗意は共に「推論」を利用しているという点で同じで、そこは切り分けが難しくなる要因となるのではないか。
と思ったのだが、この問題点は後で議論するらしい。実際、上の例で「多重債務によって」という推論が果たして言語形式にのっとった推論なのか?という点は怪しい。
これは副詞句で場合によっては必要ではない要素だからなのだが、この「場合によっては必要ではない要素」の推論は暗意の推論と何か違うところがあるのだろうか。
言語形式に落とし込める推論は明意ということだろうか。等々の疑問が浮かぶ。続きを読めばわかるかな。


2章
関連性理論
A:コンテクストの規定
コンテクストを「発話の解釈に当たって、発話の解読的意味と共に推論の前提として使われる想定」と規定する。


○よく、「言語的コンテクスト」や「物理的コンテクスト」が発話の理解に役立つという話がされる。前者は文からわかる情報で、後者は現実の環境から理解できる情報である。
 しかし、これらのコンテクストは「発話の理解においては」、全て頭の中にいったん入力されてから、それを取り出して利用するという点で同じである。これを「想定」と読んで同一視する。
 こう解釈することで、物理的コンテクストのような現実の情報を「全て」利用するということは無く、頭の中に浮かんだ情報だけが理解の手助けになる、とすることが出来る。
○このようなコンテクストを利用することを人間は高速に行う。想定は無数にあるのに何故出来るのだろうか。これを説明するのが関連性理論だそうだ。


B:関連性の原理I
関連性の原理I:「人間の認知は関連性を最大にするように働く性格を持つ。」


○認知というのは何も発話だけではない。見るとか、聞くとかと同じものと捉える。
そして、認知というのは自分にとって関心のあるものに向かうという。これは、自分の持つ想定(頭の中の情報)を増やしたりといったことが目的になる。
想定(そのとき浮かべることのできる頭の中の情報)の総和を「認知環境」という。人間は認知環境を改善することを願う存在だという。
この作用を認知効果という。認知効果は3種類あるとしている。
[1]新しい想定の獲得
[2]不確かな想定の確定化
[3]誤った想定の放棄


○認知環境というのは人によって違う。エロいことしか考えない人はそういう話題に食いつきやすいなど、傾向が違う。
エロを求める人はその情報を「要らないコストなしに多く」求めようとする。
エロ以外の雑談はエロ情報がそもそも無くその人は飽きるだろう。また、最終的にエロくなる雑談は最後に至るまで長いので眠くなる。
直接エロイ雑談はまさに彼の求める認知環境の改善をもたらし、目に活力を与え、耳を紅潮させ、口も車輪のように回転しだすことだろう。
こうした不必要なコストを払うこと無しに、できるだけ多くの認知環境の改善をもたらす情報を「関連性を持つ情報」という。
人間の認知はこれを常に最大にするように働くというのが、関連性の原理Iだ。


C:2章ここまでの感想
認知というのは認知言語学とかで聞く話で、この関連性の原理Iはちょうどカクテルパーティ効果を思い出す。
そして認知環境の改善というのは記憶のボックスモデルで聞くリハーサルの概念に似ている。(同じ?)
発話というのも本質的にカクテルパーティのように関連した情報に向かう、という考えはなるほどと思う。しかし、そうじゃない情報に認知は完全に向かわないのか?というと難しそうだ。